春になったら……

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春になったら……

その光景を見た途端、彼は顔を綻ばせた。 「わぁ……!」 隣に立つ私も、その美しさを前に絶句する。 「本当にあるんだ…」 彼は目をキラキラ輝かせながら、嵌めていた手袋を外した。 「うん。写真で見るより綺麗だね」 それに触れたくて、私も手袋を外した。 ─────冬桜。 名前のとおり、冬に咲く桜だ。 しんしんと雪が降る中を凛と立つその姿は、美しいという言葉以外には形容し難い。舞い散る花びらか雪に溶けていく様子は幻想的でまるで夢の中にいるようだ。 枝に触れると、付いていた粉雪がふわりと落ち、淡いピンク色の花が顔を出す。 あぁ、こんなに綺麗な桜が今まであっただろうか。 「おーい、梓!こっちも咲いてるぞー!」 両手をいっぱいいっぱい広げて手を降る彼に、私は苦笑する。 「あんまりはしゃぎ過ぎちゃ駄目だよ、航貴」 私がそう注意すると、「相変わらず梓は厳しいな」なんて言って彼はまた笑った。屈託のない穏やかな笑顔だ。 その穏やかな笑みを浮かべたまま、彼は頭上いっぱいに広がる桜の花を見上げる。その表情は、笑ったままなのにどこか切ない。 「なーにが”もう桜を見る事は叶わない”だか」 ボソッと呟いた後で、彼は私の方を振り返った。     
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