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「はい。じゃあ撮るよ」
結局、私は彼にカメラのレンズを向けていた。昔から彼の頼みは断れないのだ。宿題を頼まれた時も。ショートケーキのいちごが欲しいとねだられた時も。気持ちを打ち明けられた時も。そして、桜が見たいと言われた時も。
いつだって彼には敵わない。
「うん、撮って」
穏やかな表情で佇む彼の後ろには、大きな冬桜。舞い散る雪と共に、その花が朽ちるのを待っている。
きっと、冬が終わると消えてしまう。
雪も、冬桜も、彼も。
悲しいくらい冷静に、その時を待ち続けている。
静まり返った冬桜の舞う雪原。
そこに小さなシャッター音が響いた。
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