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「冬に咲く桜もあるのにな」
一瞬、曇りかけた表情を無理やり口角を上げる事で彼は笑顔を保った。
……彼のこんな顔を見るのはもう何度目だろうか。
「そうだね」
こんなに傍にいるのに、私は彼の苦しみを理解してあげられない。
「そうだ!」
暫く桜を眺めていた彼だったが、ふいに何かを思い付いたように元気な声をあげた。
「写真、撮ってよ。桜と一緒にさ」
彼はまた幼い少年のような屈託のない笑顔を見せた。
「写真……」
私は首から下げた小さなデジタルカメラに手をかける。確かにこれは写真を撮る為に持って来たものだ。
だが、本当は写真なんて撮りたくないのだ。
「俺の遺影にしてくれたらいいからさ」
ほら、やっぱり。そう言うだろうと思った。
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