プロローグ

3/7
13人が本棚に入れています
本棚に追加
/67ページ
「京也!」八秦学園の女生徒は叫びつつ己の髪を伸ばし、爪男こと桐谷京也(きりたにきょうや)に巻きつけ持ち上げると、自陣の後方へ横たえた。そのまま黒々と艶めく髪を放射線状に展開し、速人を牽制しつつ、虫男と雫の戦闘から分断させる。 「口が悪い割に仲間想いじゃねえか」速人は自分の相手を女生徒に定めた。  虫男は速人襲撃に一瞬気を取られたが、すでに目の前の雫に集中している。  虫男――志手九十九(してつくも)は体の任意の場所から腕を四本生やすことができる稀人だ。その異能ゆえ、近接戦闘では無類の強さを誇る。どこから生え襲ってくるかわからない腕は、それだけで容易に相手の接近を許さない。 そして九十九に組み付かれた者は、獰猛な蜘蛛に捕えられた獲物の如く、その運命は決する。 さらに特筆すべきは、腕とともに体内に組成される、肩と腰の役割を同時に担う特殊な骨格や関節、筋肉だ。 これらの器官によって、どこに生えようとも殴る、引っ張る、投げる、打つといった従来の腕そのものの能力を存分に発揮することができるのだ。  その三対の腕が、上下左右に嵐のようなラッシュを繰り出し雫を襲った。雫とて、異能を用いない単純な体術では三嶽学園で一、二を争う実力者であり、始めの数手はなんなくあしらった。 しかし、徐々にその回転を増す九十九のラッシュに耐えられなくなっていた。     
/67ページ

最初のコメントを投稿しよう!