プロローグ

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「きて、理人(りひと)」そう雫が呟くと、雫の体からガラスのように透き通った人型がぬっと現れ、九十九の腕を二本掴んだ。理人と呼ばれたその人型は、雫を守るように九十九の正面に立った。 九十九は驚きはしたが、自分の使命をしっかり心得ているというように、冷静に理人を己から引き剥がしにかかる。九十九の腕は生えるのであって、自由自在に出したり消したりできるものではないのだ。  残る四本の腕で理人を十数発殴るもびくともしない。目の辺りを掌で殴打してようやく理人は怯んだ様子を見せたため、その隙に九十九は腕を抜き一旦距離をとる。 (厄介だな)九十九は今の攻防で、雫と自分の異能の相性があまりよくないことを悟った。 (あの透明な人型に打撃は効かないらしい。しかも俺の腕と同じように、体のどこからでも創出できる可能性が高い。それでも)やることは一つだった。  九十九は再び雫に向かっていき、理人と相対する。今度は理人も攻撃を繰り出してきた。理人との攻防の最中、九十九は雫が自ら攻撃を仕掛けてくるのを待っていた。 理人一人では押し切れないと判断した雫が、理人の背後から出てきたところを捕まえ絞め落とす算段だ。 しかし雫本人が仕掛けてくる気配はない。九十九の狙いは雫に透けていた。     
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