登校拒否の稀人

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「今日は、祖母ちゃんの、命日だから」声を絞り出すように密は呻いた。 「なるほど」要は、無精ひげをじょりじょり指で弄びながら、密を慈しむように言う。「でも、そんな辛い想いをしてまで君が学校に行くことを、おふくろが望むかなぁ」 「だけど」密は気付かず涙を浮かべていた。 「密君の気持ちを否定するつもりはないけどね。おふくろがいつも言っていたよ。何事も程々にってね。ゆっくりでいいんじゃない?」要に促され、密は陰々とリビングへ戻った。  要が淹れたコーヒーを前に、ソファに座って密はうな垂れていた。(コンビニにはなんの気負いもなく行けるのにな)学校を意識した途端、玄関が峻厳な山のように密の行く手を阻むのだ。 「よっこいしょういち」要が向かいのソファに腰掛ける。 「面倒臭い被後見人でごめんなさい」密はつい卑屈になってそう言った。「仕事も忙しいだろうし、無理に一緒にいる時間を作ってくれなくていいんですよ」  密と要は別居していた。要は自分の経営する探偵事務所が入居しているビルの一室を自宅としており、密はその隣町のアパートを借りていた。 年頃の密に対する要なりの気遣いでそうしていたが、仕事が許す限り朝飯だけはともに過ごしている。     
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