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登校拒否の稀人
山裾からのぞく太陽は、地表をじんわり暖めるようなオレンジ色を伴って朝を運ぶ。
足底にはゆるゆると秋冷が吹き溜まり、もうじき訪れる冬の気配を感じさせた。
若月密が高校に進学して半年が過ぎた。
彼は、夏服が感じさせる元気な雰囲気が苦手だ。
その一方、秋容たる合服は、これから寒い冬に向かっていくことを知らせるなんとも言えない哀愁みたいなものをまとっていて、彼の心をくすぐる。
本来なら密の最も好む季節のはずであるが、彼の心は自然の移ろいに反応する健やかさを失っていた。
(今日こそは学校に行く)
密は学生服に着替え、髪をセットし、その日の授業の教科書をつめた鞄を肩に下げ、玄関のロビーに突っ立ったまま脂汗をかいていた。
ロビーから先、靴を履くという行程に差し掛かり、体が思うように動かなくなった。
こめかみが脈打ち、激しい頭痛が襲ってくる。なにやら腹も痛い。
(祖母ちゃん)
一歩踏み出そうとするが、頭が痺れて自分が何をしようとしているのかわからなくなる。
「密君」リビングのドアが開き、叔父の市松要が現れる。「無理して行く必要はないんじゃない?」
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