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たまらず走り出したが、僕を「ルニ様」と呼ぶ声は絶えることがなかった。死者の目までもが、僕に復讐を訴えてくる。僕はみんなを救わなくてはならない。それなら、僕のことは誰が助けてくれるんだ。
その時、脳裏にサルマの姿が蘇った。いつでも僕の右側にいて、ある時は手を差し伸べ、ある時は横面を張ってくれたサルマ。奢侈にふける妻に代わって子どもたちを導いてくれたサルマ。僕の涙を唯一、受け止めてくれた白衣のサルマ。
「サルマ! サルマ!」
僕はサルマの名前を叫んだ。屋敷の、教会の、議事堂の瓦礫の山の頂上から、ひたすらサルマを呼び続けた。
日が暮れると、あちらこちらに火が燃えているのが見えた。家が燃えているのか、人が燃えているのか、あるいは、生きるために燃やしているのかわからない。やがて、その火の中から彷徨い出てくるように亡霊が現れた。真っ赤に染まった白衣をまとい、しかし、顔の中にはぼんやりした空白が浮かぶだけ。
「サルマなのか」
亡霊が僕を抱きしめる。衣服が締め付けられるのは分かったが、ぬくもりはどこにもない。サルマは本当に死んでしまったのか、それとも僕のAIが拾えない感情の海に沈んでしまったのか。
亡霊を抱き返しながら、存在しない感覚と感情の間で、存在しない心が涙を流していてくれることを期待した。
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