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アルバムの中の誰か 1
初めて彼を見た時、医者だと思った。ぴったりと撫でつけた黒髪も、細身の黒縁眼鏡も、染み一つない白衣も――そして何より、音一つ立てない歩き方が、重病の患者への配慮に思えた。
しかし、彼が差し出したのは、問診票でも体温計でもなく、数葉の写真の入った薄いアルバムだった。
それらの写真は時代がバラバラで、遺跡の前で撮影された子どもたちの集合写真の後に、大学の講堂前で撮影された入学式の写真が入り、軍服と白衣が入り混じった写真の後には、学会発表のスライドの前で撮られた集合写真が続いた。意図的にシャッフルされたような乱暴な順番だったが、どれもこれも全て集合写真だった。
そして、なぜか、一人だけきちんと写っていない人がいた。
その人物は、いつでも誰かの真後ろに立っていて、人と人の間から顔を出すということをしなかった。写らなくてはならないのに、写りたくないという葛藤が、写真の一角から滲み出していて、どんな写真でもすぐにその人物を見つけることができた。
皮肉なものだ。隠れようとしたにもかかわらず、そのせいで僕に目を付けられた。
彼にそのことを指摘すると、眼鏡を鼻梁の奥に押しつけ、しばらく目を閉じた後、細かく二、三度頷いてページをめくった。それらは、全て同じ人物らしかった。
来る日も来る日も、白衣の彼はアルバムを持ってきた。一人の人間の人生を彩るのに、これほどたくさんの集合写真があるということに、ただただ驚いた。そして、にもかかわらず、男は人陰に隠れ続けた。同じ写真を持っている人たちは、後ろの男を思い出すことができるのか、心配になった。
とはいえ、僕自身はといえば、見知らぬ男の心配をしている場合ではなかった。
僕には、過去がなかった。
記憶がなかった。
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