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僕に与えられている部屋は、壁こそ白かったものの、その白さも温かみのある色で、病室らしさはあまりなかった。調度品に至っては絢爛さそのもので、年代物のガラスの戸棚には、誰もが知っている大作家たちの全集本が並び、名だたる政治学者、経済学者の著書が脇を固めた。そして、彼らの名前を彩るように色とりどりの宝石が飾られていた。
そんな戸棚の左下の隅には、僕の知らない作家の名前がいくつか並んでいた。きっと、新しい作家なのだろう。装丁には重厚さが不足していたし、題名には軽薄な言葉が踊っていた。唯一、名前を知っていた作家は、国際的な文学賞の受賞を期待されながらも、その機会を逸し続けていた。僕が失った記憶の中には、その彼が受賞の栄誉に輝いた過去があったかもしれないが、ここにいてはその事実を確かめることもできない。
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