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ある日、白衣の彼が持ってきた写真は、これまでと違って奇妙だった。気味が悪かった、と言い換えてもいい。
それは、家族での記念写真だった。両親に子どもたち、時には両親の親が入ることもあるが、あくまでそれは家族写真だ。家族全員が写っているからこその記念と言える。
にもかかわらず、男は、相変わらず人陰に隠れ続けた。美しい奥さんを横に置きながら、男は自分がそこにいる事実を、単なる義務以上のものとは考えていないようだった。
遺伝なのか、真似をしたのか、その子どもたちが物心つく頃の写真になると、彼らまでもが人陰に隠れるようになっていた。
奥さんは、この写真をどんな気分で眺めたのだろう。服装を見る限りでは、決して貧しそうには見えない。むしろ、十分な社会的地位を得ている夫婦なのだと思われた。特に、奥さんの指や首に光る宝飾品は、年をふるごとに豪華さを増していった。
写真の上の夫は自分と肩を並べようとしない。笑顔を残そうとしない。気持ちの距離を、贅沢さで贖おうとしているかのようにも見えた。
切り離したはずの腕や脚が痛むことを幻肢痛というらしい。過去のない僕のこの胸の痛みは、幻懐痛とでも呼ぼうか。
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