34人が本棚に入れています
本棚に追加
/29ページ
もっとおいしいものを食べたかったなぁ。コウイチロウにも鼠でも持っていけば良かった。
そしたらきっと、おいしいマグロの缶詰を仕方ないなぁって言いながら開けてくれるはずだ。
パタパタと雨がビニールを叩く音。薄っすらと見えたのは白いシャツ、黒っぽいズボンとネクタイ。それにメガネ。
誰かが傘を差してくれたみたいだ。
コウイチロウ?
ううん、コウイチロウなら笑ってわたしを抱き上げるはず。
雨粒に混じって温かい雫が一つ落ちてきた。
傘をわたしに置いて行ってくれるの?
優しい手がわたしの頭と背を撫でて、離れて行く。
その温もりが離れていくのが淋しくて。
あぁ、でも雨が当たらない。もう痛くないよ。ありがとう。
お兄さんにもお礼しなきゃ。コウイチロウの鼠はまた今度ね。
目を閉じると傘に当たる雨の音が大きくなった。
そしてまた誰かがやってくる。
あぁ、誰だったかな。
良く知ってるのに思い出せない。
誰だったかな……。
どんどん空に吸い込まれていく意識の中で、誰かの声が聞こえた気がした。
どれくらい経っただろう。
やっぱり雨が降ってる。でもなんだか変。
目が痛いくらいに飛び込んでくる景色。
これは何?
全く世界が違って見える。
音や匂いが薄らいだ分、目から世界を感じるよ。
何だろう。
ぶるりと体が震える。
最初のコメントを投稿しよう!