雨子

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わたしは慌ててスケッチブックの上に覆い被さった。 「ごめん、でも、すごく上手だね」 褒めてくれた。眼鏡の奥の目が優しく笑っている。 嬉しかったから、そっとスケッチブックから体を起こした。 お兄さんが「見てもいい?」と聞くから頷いた。 「う、こ? 名前うこちゃんっていうの?」 お兄さんの指が絵の下に書いたサインをなぞる。 コウイチロウに教えてもらった二つだけの文字。わたしの名前。 「僕ははると。晴れる人で晴人」 「わたしと反対だね。わたしは雨の子のうこ」 はるとがわたしを見ていた。お互いの名前を初めて知った。 少し前からはるとを見ていた。あの雨の日にわたしに傘をくれた人はこの人なんじゃないかなって。 今のわたしを見てもはるとは分からないだろう。 わたしたち、前に会ってるよ! わたし、はるとに助けてもらったんだよ。そう言いたいけど、言えない。 だってあの時のわたしは今の姿じゃなかったから。 とにかく、話をするのは初めてで、どうしていいか分からず、カウンターの奥でグラスを拭いているコウイチロウに助けを求める。 肩をすくめるコウイチロウ。自分で考えろと言っているみたい。 はるとに目を戻す。 「絵しりとりやりたい」     
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