雨子

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雨子

雨の日は好きだ。 コウイチロウのカフェでクリームソーダを飲む。長いストローですぅっと吸い込めば、冷たくて甘いメロンソーダが喉で弾ける。 ガラスに伝う雨粒越しに、色とりどりの傘が揺れている。 晴れの日よりも鮮明に見える世界を、コウイチロウの買ってくれた色鉛筆で描く。 窓に面したカウンター席がわたしの定位置。 スケッチブックを広げると、幸せな気分になる。コウイチロウのお仕事が終わっても雨が降っていたらいいな。 そしたらまた絵しりとりをするんだ。 それまでは描きかけの絵を完成させよう。わたしが絵を描けるのは雨が降っている間だけ。その幸せで特別な時間は、いつだってこのカフェで過ごす。ここにいればあのお兄さんに会えるから。 今描いているのはそのお兄さんの顔。時々カフェの前を通る。よく中を覗いているんだ。 白いシャツに紺のズボン、臙脂のネクタイは近くの高校の制服だってコウイチロウが言ってた。 黒い縁の眼鏡をかけてる。グレーのおっきなリュックを背負ってて、髪の毛はアヒルのお尻みたいにきゅっと前があがってる。 「それ、もしかして、僕?」 急に耳元で声がして、びっくりして振り返ると、そのお兄さんが立ってた。     
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