紘一朗

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紘一朗

うこは雨の降っている間だけ、人間の少女の姿になる不思議な猫だ。 猫の姿の時、背中は黒く、お腹と足は白い毛というごく普通の猫だ。飼われてはいない筈だけど、やせ細ってはいない。きっとあちこちで餌を分けてもらっているのだろう。 「かつお節食べるか?」 『食べる!』 猫なのに、俺の耳にはちゃんと言葉が聞こえる。これは家系の影響だろう。 祖父は古くは陰陽師の家系だとかで、祈祷師のような事をしていた。 本業は和菓子屋で、それも昭和の時代には繁盛していたようだが、コンビニがあちこちにでき、大型商業施設ができると、売れ行きはさっぱりになった。 その店が建っているのは、文化遺産になりそうな古い土塀の家が立ち並ぶ通りで、それなりに風情がある。所々に土産物屋があり、江戸時代には城下町として盛えていたようだが、その名残りは卯建の付いた建物以外にはない。 「うだつ」というのは古い家の境界に付いている土の防火壁のことだ。小さな瓦屋根も付いていて、裕福な家にしか設けられなかったことから「うだつが上がらない」なんて言葉ができたらしい。 そんなうだつの付いた家が多く立ち並ぶこの界隈は、ちょっとした観光地になっている。     
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