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プロローグ
微睡(まどろ)みの中、鳴り響く電子音。夢が非現実に変わり、現実が姿を現わす瞬間。
「はい、草間和成(くさまかずな)です。どちらさまでしょうか」
「・・・」
「もーし、もーし」
「プー、プー、プー」
「あっ、切れちまった」
草間は耳から離したスマホをスーツの内ポケットにしまい込んだ。
「おお寒・・・」
自然の摂理にはかなわない。草間は身体を強張らせて身震いした。
凍えながら、辺りの状況を確認しようと窓の外に顔を向けると、そこは雪国だった。
「とうとう来ちまったか・・・」
「草間くん、わかっていると思うが・・・」
「何処でしょうか」
「今回の件で、少し君も頭を冷やして冷静になった方がいいっていう人事の意見だ」
そう語る部長の顔を頭に浮かんだ。断るという決断も無くはなかった。でも、環境を変えて再スタートを切りたいと思う自分もいた。
そして、今の自分はノヴォシビルスクに向かうシベリア鉄道の車内にいた。
これがオレの転機となるのだろうか。凍てつく車内は、草間に同調するかのように寡黙を決め込んでいた。
「カシャン、カシャン、カシャン」
連続する機械音がその静寂を破った。
その時初めて向かいに座る少女の存在を知った。
少女は一眼レフカメラを手に熱心にシャッターを切っていた。
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