至福への道程

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 温かい物を買ってくると言ったら、こちらを向いて彼女は言った。  え?  聞こえた品物がにわかに信じられなかったが、『できるアシスタント』を目指す俺には、聞き直すことができなかった。わかった、とうなずいて、公園の池のほとりで写真撮影する彼女を残して、コンビニへ行くことにした。  あんまん……? あんまんと言ったのか?  この時期に食べる定番の温かい物は『肉まん』だろう。それか『ピザまん』……まあ、いろんな種類があるから迷うけどさ……でも、一周回って結局帰ってくるのは、その二大巨頭じゃないだろうか。  高校に入学して数日後、廊下で出会って、彼女に一目惚れをした。『小柄、サラサラの黒髪ショートボブ、眼鏡女子』俺の好みを完全にコンプリートしていたからで、あの時の衝撃はいまだに忘れない。  どうにかして知り合いになりたいと思い、追いかけたところ、部室がある棟に入っていった。そのまま追いかければ、彼女はある部室の前で立ち止まっていた。 ―あなたも入部するの?  忘れもしない。初めての声。そして、にっこりと微笑んだ顔。 ―良かった。一人じゃ心細くて 「天使か!」  あの時の笑顔を思い出したら、顔が熱くなった。埋めていたマフラーから顔を出し、天を仰ぐ。雪交じりの冷たい風が心地いい。  ……でも、笑顔を見たの、あれが最初で最後なんだよな……。同じ部活で一緒に居れば、いつでもあの顔を見れると思ったのに……はあ……。  一緒にいてわかったのは、彼女は滅多に笑わないし驚かないクール系女子だということ。  親父さんがプロのカメラマンなんだそうだ。いつも怖い顔をしてファインダーを覗いているから、彼女自身も、カメラを持つと自然に顔がそうなるんだそうだ。 ―真剣な表情をすることは悪いこと? 「……いや、悪くないです……。でも、たまには……」 ―私ねえ、インスタ映えとか興味ないの。パフェとかパンケーキとか、動かない物に感動する意味がわかんない  スイーツを前にしたら顔がほころぶと思ったが、そうでもないらしい。 「はあ。いつも身近にいて、手足のように動いている下僕に憐れみを……」  俺の呟きは、吹きすさぶ風雪にびゅうっと飛ばされた。
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