0人が本棚に入れています
本棚に追加
/48ページ
向かい風に対して背中を盾にしたことで、まぶたを開けても砂が目に入る可能性がほぼなくなった。
そうしながらも足は止めない。彼は後ろ向きのまま歩き続けた。
(どうなってるんだ…一体)
宗吾の眼前には、砂の大地が広がっている。
前を向いてもそうであったし、後ろを向いてもそうだった。
風が止んだのを感じると同時に、彼は勢いをつけて体を進行方向へ向ける。
(俺は夢を見てるのか?)
黒雲が空を包んでいる影響か、夕方と夜の間といった程度の明るさしかない。
はるか先で、稲光が雲の表面を這いずっては消える。
建物も道もなく、ただ砂ばかりがある。
水分と呼べるものは、彼自身が体内に貯めている分しかない。
少なくとも、目に見える範囲に川や池や海、小さな水たまりといったものは存在しなかった。
(ここは一体どこなんだ…?)
心に浮かぶのは疑問ばかりだった。
しかし、それに返答できる者はいない。
人の姿もなかった。
黒雲と風、そして砂ばかりが彼の周囲にあった。
「……」
宗吾は、黒の革靴で砂漠に足跡を刻む。
十ほどの足跡が後ろに続いていたが、それ以降は砂がかぶさって見えなくなる。
紺のジャケットとスラックスは、砂ぼこりで一部分がわずかに白くなっている。
深緑色のネクタイは、もうずいぶん前から緩められていた。
最初のコメントを投稿しよう!