グッバイ、ミスター

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 向かい風に対して背中を盾にしたことで、まぶたを開けても砂が目に入る可能性がほぼなくなった。  そうしながらも足は止めない。彼は後ろ向きのまま歩き続けた。 (どうなってるんだ…一体)  宗吾の眼前には、砂の大地が広がっている。  前を向いてもそうであったし、後ろを向いてもそうだった。  風が止んだのを感じると同時に、彼は勢いをつけて体を進行方向へ向ける。 (俺は夢を見てるのか?)  黒雲が空を包んでいる影響か、夕方と夜の間といった程度の明るさしかない。  はるか先で、稲光が雲の表面を這いずっては消える。  建物も道もなく、ただ砂ばかりがある。  水分と呼べるものは、彼自身が体内に貯めている分しかない。  少なくとも、目に見える範囲に川や池や海、小さな水たまりといったものは存在しなかった。 (ここは一体どこなんだ…?)  心に浮かぶのは疑問ばかりだった。  しかし、それに返答できる者はいない。  人の姿もなかった。  黒雲と風、そして砂ばかりが彼の周囲にあった。 「……」  宗吾は、黒の革靴で砂漠に足跡を刻む。  十ほどの足跡が後ろに続いていたが、それ以降は砂がかぶさって見えなくなる。  紺のジャケットとスラックスは、砂ぼこりで一部分がわずかに白くなっている。  深緑色のネクタイは、もうずいぶん前から緩められていた。     
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