グッバイ、ミスター

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(…いつもハキハキしてて、感じのいい子だったな)  心に浮かんだ言葉が過去形になっているのは、想像が彼の記憶に基づいているためだった。  それは同時に、この場所に逃げ込んでいることを彼が自覚できているという証明でもある。  想像であるため、何もかもが精細に再現されているわけではない。ただ、興味をそそるものに関しては、機材で録画された映像よりも解像度が高い。  何度か店を訪れた時に接客してくれた女性店員の顔は、はっきりと憶えていた。  やがて彼女はアイスコーヒーを完成させ、彼の前に戻ってくる。 「それでは、お会計失礼いたします。アイスコーヒー1点で、税込み220円になります」 「あ、はい」  宗吾は財布から硬貨を出してコーヒー代を払った。その後で、彼女からお釣りを受け取ろうとする。  しかしここで予想外のことが起きた。  彼の手に置かれた硬貨のうち1枚が、他のものとうまく重なり合わず転げ落ちそうになったのだ。 「あっ」 「おっとと」  それに気づいた店員と、遅れて反応した宗吾が硬貨を追う。  直後、ふたりは硬貨をつかむとともに、互いの手を握り合う形になった。 「あっ」 「あっ」  ふたりはほぼ同時に声をあげ、顔を赤くしつつ手を離す。     
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