グッバイ、ミスター

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グッバイ、ミスター

 雨上がりの空は、夜明け前に似ている。  岸田 宗吾(きしだ しゅうご)は、そんな言葉をどこかで聞いた気がした。  ただ、どこで聞いたのかはわからない。もしかしたら聞いたのではなく、文字として見たのかもしれない。  何かの物語で読んだのか、それとも自分が実際に雨上がりの空を見てそう思ったのか。  考えていくうちに、誰かの言葉ではなく自分が生み出した言葉であるかのような気がしてくる。 (…どっちにしても、もう……俺には確かめようがない)  宗吾の眼前には、砂の大地が広がっている。  空は黒雲に覆われているが、雨が降りそうな気配はない。  と、ここで風が吹いた。 「…う」  勢いは弱い。  ただそれでも、宗吾はまぶたを閉じる必要があった。  乾燥した風には砂が紛れ込んでいる。まぶたを開いたままでは、それが目に入ってしまう。  空気が乾燥しきっているせいで、弱い風でも砂を巻き上げることができるようになってしまっているのだ。  そのため、風の気配を感じる度に、宗吾はいちいちまぶたを閉じなければならなかった。 (どのくらい…歩いてきたんだろうな)  彼はそう思いつつ、体ごと後ろを向く。     
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