6.覚悟のうえ

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「結局、一緒かよ。とっとと行くぞ!」  話しながらゆっくり歩いている私と撫で牛に焦れたアクノカミが振り返り声を荒げています。  そうですね。島根に着いたら蕎麦に日本酒、団子、ぜんざいも欠かせません。最近流行っているパンケーキなるものも食したいところです。多忙な日々に備えて温泉に入り万全な状態に整えておきたいですし、いくら時間があっても足りないかもしれません。 「アクノカミ! 急ぎましょう!」 「…お前らがくっちゃべってるからだろ! で、この辺りで陰への入り口はどこだ」  小走りになりながら、森の奥深く、木々や岩陰が重なり陽の当たらない、ひんやりとした空気が漂う入り口を目指します。  出雲がある島根という地域に着くと、俺でもわかるほど空気が変わった。  神社や森の奥で感じていたひんやりとしているけれど、澄んだような軽い空気。そんなものが当たり前のように漂っている。なるほど。数多の神が集まる場所か。うっかり納得してしまいそうになるが、まだわからない。この目で見て、実際に感じるまでは何も確定せず、ただ情報として記憶しておくだけだ。  うさぎと牛ははしゃぎながら、あちこちの店で寄り道を繰り返している。最初に口にしたのは灰色の細長い、そばとかいう食べ物だった。これを食べたら、あのときのようにここから出られなくなるかもしれないという思いが一瞬よぎったものの、今の俺ならばどうにでもなると思い直した。見た目よりは美味かったが、冷えた日本酒のほうが好みだ。  食べ歩くだけでなく、シメナワという紐でねじったもので作った小物を買ったり、いつの間にか調べていたのか、露天風呂で有名な温泉宿に泊まったりとこの土地に馴染もうと勤しんでいる。  途中、うさぎが撮影した写真をSNSに公開して「おかげさまで、もくてきちにつきそうです!」と発信していたのには唖然としたが。俺の視線を感じると、「旅の成功を祈ってくれている書き込みやメッセージが送られていたのできちんと受け取って返事をしないと、せっかくの思いを無駄にしてしまいます」と言い訳していた。言葉には力があってうんぬんともっともらしいことを言っていたが、ただ単に撮影したものを見てほしい、発信したいだけに違いない。そう思うくらい、実に楽しそうにやり取りをしている。
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