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1 旧校舎の花子さん(2)
夕方から夜が深まる校舎を歩く。部活動を終えた生徒たちが、校門を潜って帰宅している様子が見えた。
大きなカバンを抱えて疲れ切った身体とは裏腹に、楽しげに歩く彼らをみて、やっと帰るのだなと一瞥した。
昔であれば元気な様子を微笑ましく見ていたが、今では何の感情も持ち合わせなくなった。ただ生徒がいなくなって、溜まった仕事をやらなくてはと考えるだけだ。
静かになった校舎を出て、旧校舎へつづく渡り廊下を進む。いつからか使われなくなった旧校舎は、入り口には南京錠が取り付けられており、容易には入れないようになっていた。
何年か前に、ホームレスが雨風をしのぐために侵入していたらしく、どの扉もきっちりと施錠するようになったと聞いたことをふと思い出す。
南京錠を右手に持ち、錆びた鍵穴にそれをねじ込む。力を入れて鍵を回すと、カチャリと音を立てて南京錠がはずれた。
ドアノブにくくりつけられた細い鎖を外すと、旧校舎の玄関の鍵を開け、そろりと建物に侵入した。
暗く、奥まで続く廊下の先はぼんやりとしている。吸い込まれそうな闇の中へ足を踏み入れると、一抹の不安が脳裏をよぎった。
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