1 廃校舎の花子さん (1)

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 今日もみな残業だ。  手当ては出ないが、クビにされないのだから良しとしよう。  使命感なんて青臭いことを言う年でもなくなった。  時間は勝手に過ぎて、定年まで大した変化もなく働くのだろう。 「楠木先生、ちょっといいかしら」  僕はパソコンから目を離し、声のしたほうに体を向けた。はい、と言って僕は立ち上がった。 「実は、今日中に必要な資料があるのだけれど」  そう言うと、三鷹教頭は僕に小さな鍵を手渡した。 「これは?」  見覚えのない鍵だった。  『旧校舎 資料室』というプレートがつけられていた。 「最近はあんまり使わなくなったけれど、旧校舎の資料で明日の研究会に使うものがあると思うの。申し訳ないけれど、これ持ってきてくださらないかしら?」  三鷹教頭は貼り付けた笑顔と共に、資料の名前が書かれた紙を手渡してきた。  僕は一瞬で営業スマイルを浮かべると、丁寧に鍵を受け取った。すると教頭はこれで用はないと、すぐさま自分のデスクへ向かった。    新任では無いが一番若手であるせいか、他人の雑務まで押し付けられる。自分の仕事も片付いていないのに今後のことを考えて文句も言わずにいる。  面倒だがしかたないな。  僕は一人、旧校舎へと向かった。  
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