0人が本棚に入れています
本棚に追加
プロローグ
漆黒の中に見え隠れする赤。
時にそれは貯め池のように集まり、また放物線を描き地に落ちてゆく。
飛沫が壁を、私を、あなたを染め上げてゆく。
受け入れたわけではない、抵抗するわけでもない。すべて夢のようで何もかもが嘘であると信じきっているのだ。
だから私は何もしない。目の前にいるあなたを見つめたまま、ゆっくりと腰を下ろす。
こんな悪い夢、早く覚めてしまえばいい。
瞬きをするたびに濃くなる赤は、感覚を狂わせ始める。
暖かい赤 きれいな赤 芳醇な赤。
美しく私を着飾るための赤。
待ち焦がれた空間で、私は声もあげず涙を流す。黄色くにごった瞳に映るのは見知ったあの子。
私は今、自由を得たのだと歓喜した。
最初のコメントを投稿しよう!