プロローグ

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プロローグ

           漆黒の中に見え隠れする赤。    時にそれは貯め池のように集まり、また放物線を描き地に落ちてゆく。  飛沫が壁を、私を、あなたを染め上げてゆく。    受け入れたわけではない、抵抗するわけでもない。すべて夢のようで何もかもが嘘であると信じきっているのだ。  だから私は何もしない。目の前にいるあなたを見つめたまま、ゆっくりと腰を下ろす。  こんな悪い夢、早く覚めてしまえばいい。    瞬きをするたびに濃くなる赤は、感覚を狂わせ始める。             暖かい赤 きれいな赤 芳醇な赤。            美しく私を着飾るための赤。    待ち焦がれた空間で、私は声もあげず涙を流す。黄色くにごった瞳に映るのは見知ったあの子。           私は今、自由を得たのだと歓喜した。
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