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二人して世界樹の淵まで立つとそこから強い風が吹き荒れた。
だが、それを物ともせずずっと見つめていた。
まだ、ヴィーナスの村が発展してないのかまだ地上には家の一つもなかった。
代わりにあるのは広大な草原と大きな緑に覆い繁る森だった。
その景色は彼には感嘆な息を漏らすもののブルラはそこを懐かしむように眺めていた。
「懐かしいな………。ガルヴァ………私ね。役目を貰う前にここで………自分の役目を全うするんだって……決意してたんだよ………今じゃ、私は………」
最後に何が言いたかったのかガルヴァには分からなかったけれどなんとなく分かったような所があった。
「母上はここが始まりで終わりでもあるんだね……」
そう言うとブルラは一度自分の息子の顔を見て優しく微笑んだ。
その表情を見て彼は目を見開くがすぐに彼女の思いを汲んで後ろに下がったブルラの視線に入らないように……
暫くブルラはずっとそこで立ち尽くした後両手を横に広げた。
まるで世界を抱いてるかのような趣で。
「これが……イサエル様が守る世界なんですね………」と弱々しく言った後に目を閉じた。
まるで何処かで彼の笛の音を聴いてるような雰囲気を纏っていた。
「イサエル様…………」
そおっと彼の名を呼んだとき、終わりのカウントダウンが足元からやってきた。
今ブルラの足は徐々に光の塵に変えられていた。
それから彼女の頭の中には今まで過ごした彼との想い出を走馬灯のごとく思い出していた。
笑ったり、死にかけたり、泣いたり、呆れたり、さらにはイサエルと寄り添って眠ったりとかを。
その一つ一つがかけがいのない物となっていた。
それから彼女の体が胴まで達すると背後にいるガルヴァに遺言のごとく話しかけてきた。
「ガルヴァ…………イサエル様が来たら私の事聞かれたらこう言って“立派な人でした”って…………それから、自分の役目をちゃんと果たすんだよ」
その言葉を肝に命じて高らかに「はい!母上!」と泣きじゃくりながら応えた。
その言葉を聞いて一安心を抱き、ブルラは一度深呼吸してから空を見上げた。
すでに自分の胴体が消え、今から頭を塵に変えようとしてた。
死の恐怖が目の前まで迫っているのに。ブルラはじっと空を見上げたまま恐れていなかった。
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