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余りにもありきたりな返答に僕は困惑してしまった。
脳に入った情報を整理する必要がある。
要するに、これって冗談だよね。
「じょー、だ、あっ!」
バッシャ!
やっちまったなあ。
足元に気付かず、水溜りに足が入ってしまったのだった。
見ると、彼女の白いブラウスに泥水が跳ねて、黒いシミになっているではないか。月明りで、よく目立つ。
「あっ、ゴメン」
彼女はブラウスのシミを見つめた。
「構いませんよ。別に――」
そういった瞬間、彼女の足は水溜りを踏んづけて、泥水が四方八方に飛び散った。
勿論、僕の顔にも泥水が浴びせられた。
これは報復か?
「やったな」
僕も負けずに、バッシャとやり返した。
彼女の顔にも泥水が跳ねた。
「やったわね」
またも彼女の攻撃が、発せられた。
この行動が数回繰り返された。
月明りに照らされた彼女は、泥まみれだった。
「それじゃ、泥んこ姫だね」
泥だらけの彼女が、すごく可愛く見えた。
「あなたも泥人形じゃないの」
お互いを見つめて笑ってしまった。
まるで時間が停止してるように思えた。
急に辺りが少し暗くなってきた。
「もう、行かなきゃ」
「……」
「使者が来たみたい」
「どこに?」
「あなたには見えないみたいね」
視覚的には何も確認出来ない。
照明が停電しているのだ。
「じゃあ、さよなら。楽しかったわ」
彼女が告げた。
「僕も……、楽しかったです」
急に切なくなった。
月光が翳った。
彼女の姿が見えなくなった。
しばらくして、再び明るくなったが、もう彼女はいなくなっていた。
「本当に、月に帰っちゃったの」
僕は、思わず呟いた。
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