満月ロマンだん

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 公園の照明がLEDに変わったせいで、よく辺りが見渡せるほど明るくなった。  やはり、かなりぬかるんでいるようだ。  あちこちに水溜りが確認できる。  取り敢えず、乾いた土の上に、天体望遠鏡を設置した。  彼女の姿は見当たらない。  でも何か、人の気配を感じる。  たぶん彼女だろう……。  僕は、天体望遠鏡を月に向けて観測し始めた。  うん、満月!  月で兎が餅つきをしているなんて、昔の人の想像力にロマン感じますね。 「兎さんはいましたか?」  天体望遠鏡を覗き込んでいた僕の背後から声が聞こえた。  ほら、やっぱりね。 「――はい、お餅をついてますよ」  僕はクスっと笑いながら後方に振り返った。    白いブラウスにデニムジーンズを身に着けた黒髪の美少女だった。  予想通り可愛過ぎる!  でも僕より、ちょっと年上かも……。  彼女は微笑みながら僕を見ていた。 「私も眺めてもいい?」 「もちろん」  彼女が、天体望遠鏡の覗き穴に右眼を近付けた。  髪が後方に流れた瞬間、微かに花の香が舞った。  僕は一瞬にして、魔法に掛けられてしまった。 「月って不思議でしょ。地球からは絶対に裏側が見えない。何故だかわかる?」  月を観察しながら発した彼女の言葉に僕は戸惑った。  そりゃ、月の裏側には、秘密基地が――。  言葉は声にならなかった。 「裏側にはね、王国があるの」  そういうと彼女は、ゆっくりとこっちへ向き直って、満月を見上げた。  王国? 秘密基地のことですか? 「私はね、その王国の者なの。もうすぐ迎いがくる。私は月に帰らなければならない……」  彼女の瞳は真剣そのものだった。  その表情に僕は、胸が熱くなった。  ただ、秘密基地に王国が存在するんだとしたら、彼女は月の政府機関の人間。諜報部員だってこと? 地球を調査してたのか? 「君はスパイなの?」 「いいえ、私の父は、月の国の君主なのです」 「ってことは、王女様ってこと」 「ええ」  まさかねぇ、月の裏側に君主国家が存在してるなんて、ありえないよ。  いいや、地球政府からの独立ってこともありえなくはないかも――。 「じゃあ、何をしに地球へ」 「留学です」 「――」
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