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*** 秋祭り ***
海を見下ろす小高い丘の中腹に、一宮神社はあった。
今年は七年に一度の大祭があり、それに合わせて改修が施された。のぼりや幕なども新調された。秋に行われるその大祭に向けて、今日から地元の子供たちの神楽の練習が始まる。成人をとうに過ぎた章は道具類の具合を前もって見るために、仕事の合間をぬってやって来た。
「じゃあいくよ。いち、にの、さんっ」
農作業を抜けてやって来た幼馴染みの成彦と、本殿横の倉庫のかんぬきを引いた。章がかんぬきを立て掛けて、成彦が重い木の扉を全開にした。たちまち中から古いものの匂いが乾いた秋の風とともに抜けていった。
「成彦、今年の米の出来、どう?」
倉庫の前に広げたむしろの上に、必要な道具類を並べながら章は訊いた。
「ああ、いいよ。粒ぞろい。台風の前に刈り入れできて助かった。お前んとこにも、今度少し届けてやるよ」
「いつもありがとな」
成彦が麦わら帽子の奥から章に笑顔を向けた。
「こっちこそ、いつもめずらしいお菓子とかもらってるしな」
「みっちゃん、ずいぶん会ってないな。大きくなった?」
「イヤイヤが始まってさ、麻衣子も手を焼いてるよ」
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