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佐々木は付き合いきれない、といった表情で早々に隣の寝室に引き揚げていった。仙波も大あくびをして眼鏡がずれた。
「相沢さんも見たでしょ、向こうの女の子、何て言ったっけ?」
「中沢」
堤がぼそっと名前をつぶやいた。
「そうそう、中沢さん。あの、けがれなき瞳。画数多いほうの穢れね。な? 堤」
丈偉は馴れ馴れしく堤の肩に手を回した。
「な、なんで俺に振るんですか。それに、さっきから言葉の選び方が、とってもおっさんくさいですよ」
明らかに動揺した風の若い男に、なおも丈偉は構い続けた。
「あ、今、都合が悪くなって話題を変えようとしたでしょう? ちゃんと見てたよ、君が中沢さんを目で追っていたのを」
堤は助けを求めるような視線を相沢に送った。
「その辺にしといてあげな」
言いながら相沢も半分面白がっている顔をしていた。
「じゃ、この辺で勘弁してあげるよ。けどね、俺はおっさんでもないし、くさくもない」
「知ってますよ。単なる言葉のあやです」
ようやく丈偉から解放されて、堤は道具類を片づけ始めた。
「それにしてもこの旅館、落ち着くな。俺もう寝るわ」
そう言って、丈偉は部屋を出ていこうとした。
「鈴木さんの部屋はここですよ」
仙波が言った。
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