Chapter 5  茶番劇 霊感 報告書 懐中電灯

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*** 茶番劇 ***  ゴミ処理発電所のリポートを終え、取材クルーが荷物を車の後ろに詰め込んでいた。 「どうなの? ゴミ処理によるエネルギー産出量とエネルギー消費量がプラマイ・ゼロになる日がくるなんてあり得るの? いくら説明されても机上の何とかに聞こえてしまうわたしは、心が歪んでいるの? それともわたしの単なる理解不足?」 「一度の発言で、質問は一個まで。じゃないと混乱するよ?」 「日常会話では、日常茶飯事です。で、あなたの意見は?」  相沢が手のひらを丈偉に向けて促した。 「俺より、仙波さんが何か喋りたそうだよ?」  丈偉は傍らにいた男に親指を差した。振られた仙波は眼鏡を押し上げた。 「どうでしょうね、そう考える科学者もいますけど。でも必ずどこかにロスはあるでしょうから、厳密にはプラマイ・ゼロになることはないと思います。電化製品の性能がよくなって、エネルギーの消費量が半減しても、いまヒトが担っている労働のいくつかが電化製品化されれば、それだけよけいにエネルギーが必要になるわけだし。ただし50年先はわかりませんよ。飛躍的に何かが加速しているかもしれない」 「科学者の言うことは、疑ってかからないとってことよね」 「根拠のない否定は大人げないけど、疑いを持つことは健全だと思いますよ、こういう分野においては」  聞きたかった言葉が聞けて、相沢は満足そうな笑みを仙波に向けた。丈偉は駐車スペースふたつぶん離れた場所にいる市の職員たちに目をやった。中沢がこちらの様子をうかがっている。丈偉と目が合って、すぐに何でもなかったように視線をさまよわせた。斉藤は目を合わせないどころか、今日に至っては、顔をこちらに向けることさえなかった。
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