北町夜話

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「お――おかしいか」 「おかしいことなどありましょうか。幾千(いくせん)無縁仏(むえんぼとけ)に想いを馳せる……さすがは山崎様。慈悲深いことでございまする」   そうではない、そうではないのだ。本当は――。  ――震えておりますね。  不意に耳鳴りがやみ、静かな声音(こわね)耳朶(じだ)にするりと入り込んできた。 「違う、(むくろ)怖ろしさに震えておるのではない。武士たるもの、そのようなものを怖れては……」  ――わかっております。(よろこ)んでらっしゃるんですね。  宗右衛門は身動(みじろ)ぎした。  わかるのか、この(よろこ)びが。おぬし、わかってくれるのか――宗右衛門(そうえもん)は顔を上げた。  ところが、目の前にあったのは小物の不審(ふしん)げな顔だった。
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