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あれは昼間のうだるような暑さの残る、夕刻であった。
通報を受けた宗右衛門は、神田くんだりの小さな商家におっとり刀で駆けつけた。
小物に案内されて屋敷の敷居を跨ぐと、土間の中央に茣蓙が敷かれており、その上にこんもりと膨らんだ筵があった。筵からは白い二本の足が覗いている。
その横で家の者が泣きすがり、また一心不乱に念仏を唱えていた。
「殺しか」
「へぇ。わかりません。初めに見つけた男によると、横手の細道で叫び声がして、駆けつけた時にゃあ、女は血を流して息絶えていたそうでやす」
そうか――と、宗右衛門は眉根を寄せた。内心はけろりとしたものだったが、遺族や小物の手前、神妙な顔をしないわけにはいかなかった。そのとたん、腹がぐうと鳴った。亡骸を見て食欲が増進む奇人ではないが、神妙な顔をすると決まって腹が減るのだ。
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