北町夜話

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   ※  あれは昼間のうだるような暑さの残る、夕刻であった。  通報(しらせ)を受けた宗右衛門(そうえもん)は、神田(かんだ)くんだりの小さな商家におっとり刀で駆けつけた。  小物(こもの)に案内されて屋敷の敷居を跨ぐと、土間の中央に茣蓙(ござ)が敷かれており、その上にこんもりと膨らんだ(むしろ)があった。筵からは白い二本の足が覗いている。  その横で家の者が泣きすがり、また一心不乱に念仏を唱えていた。 「殺しか」 「へぇ。わかりません。初めに見つけた男によると、横手の細道で叫び声がして、駆けつけた時にゃあ、女は血を流して息絶えていたそうでやす」  そうか――と、宗右衛門は眉根を寄せた。内心はけろりとしたものだったが、遺族や小物の手前、神妙な顔をしないわけにはいかなかった。そのとたん、腹がぐうと鳴った。亡骸を見て食欲が増進(すす)む奇人ではないが、神妙な顔をすると決まって腹が減るのだ。
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