北町夜話

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「――なんだ、生きておるではないか」  宗右衛門の(かす)れた呟きに、小物は驚いたように目を上げた。 「ありゃあ、どこをどう見ても死んでまさぁ。あの薄膜が張ったような目ぇが、なによりの(あかし)でありやしょう」 「何を言っておるのだ、あの目こそが……」  その時、宗右衛門は今更のように気がついた。あんなふうに喉笛を引き裂かれ、生きているわけがない。  とたん皮膚が粟立(あわだ)ち毛が太り――頭の芯が痺れたようになった。 「どうかなさったんでぇ」  小物が不審げな顔で見上げてくる。  宗右衛門は口を(つぐ)んだ。  ――おれの(ほか)には見えていないのか。  恐る恐る女に目を遣る。  女は(しっか)りと宗右衛門を見ていた。  場所を動いても視線はついてきた。目玉が宗右衛門の動きを追うのである。  他は死んでいるのに、目だけ(・・・)が生きているのだ。
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