7人が本棚に入れています
本棚に追加
その日を皮切りに宗右衛門は数多の死体に見られることとなった。
死体検分のみならず、辻の行き倒れや、玉川上水に浮かぶ土左衛門でさえ宗右衛門を見た。ただし見てくるのは女の死体のみだった。だからどんなに崩れていても性別だけは検分せずとも一目瞭然である。
戦々恐々の毎日であった。
江戸の町は物騒である。怨みある人殺しのみならず、辻斬り、仇討ち、情死、自害と無惨流行りである。さらに宗右衛門は同心なれば、遭わぬ死体にも会いにゆかねばならない。
その度にあの目で見られる。
暗く深い闇の凝った目――。
怖かった。
怖い怖いといいながらも、実のところ宗右衛門が怖がっているのはあの目ではなかった。
宗右衛門が本当に怖れているのは――あの目に魅せられつつある己自身であった。
最初のコメントを投稿しよう!