北町夜話

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 その日を皮切りに宗右衛門(そうえもん)数多(あまた)の死体に見られる(・・・・)こととなった。  死体検分のみならず、辻の行き倒れや、玉川(たまがわ)上水(すいじょう)に浮かぶ土左衛門(どざえもん)でさえ宗右衛門を見た。ただし見てくるのは女の死体のみだった。だからどんなに崩れていても性別だけは検分せずとも一目瞭然である。  戦々恐々の毎日であった。  江戸の町は物騒である。怨みある人殺しのみならず、辻斬り、仇討ち、情死、自害と無惨(むざん)流行(ばや)りである。さらに宗右衛門は同心なれば、()わぬ死体にも()いにゆかねばならない。  その度にあの目(・・・)で見られる。  暗く深い闇の(こご)った目――。  怖かった。  怖い怖いといいながらも、実のところ宗右衛門が怖がっているのはあの目ではなかった。  宗右衛門が本当に怖れているのは――あの目に(・・・・)魅せられつつある(・・・・・・・・)己自身(・・・)であった。
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