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家まであと数メートル。
わたしは胸の高鳴りが静まるのを待った。
今度会う時はきっと、わたしは、本当の”わたし”になっている。
嘘みたいな話を、わたしは確信を持って言った。
あの子はそういうのは気にしないと言ったけれど、わたしがそうしたいんだと伝えた。
きっとあの子も半信半疑で聞いていたと思う。
今はまだ、無理だろうけど……。
家の中へ入ると兄は既に来ていて、リビングで退屈そうに雑誌を読んでいた。
わたしの姿を見つけると、ハァと溜め息をつき、「遅いよぉー」と呆れた。
「あとは、ここにまとめた荷物だけだから、先に乗ってろよ」
「あ、うん」
「なに?」
「んーん。なんでもない……」
兄は最後に残った細々とした荷物をトランクに積んだ。
わたしは制服のまま助手席へ。
ドアを開けようとした時、ふいに兄が問いかけるような視線をわたしに送った。
「友達?」
そう言ったあと耳元で、「誰?」と小声で訊いた。
振り向くと、あの子が息を切らせて立っていた。
びっくりしているわたしを尻目に、あの子は一言、
「色紙」
そう言ってぶっきらぼうに右手を差し出した。
「色紙?」
「そう。寄せ書き」
わざわざその為に?
「うそ……」
嬉しくて涙が出そうだ。
わたしは急いで助手席に置いたカバンを引き寄せた。
色紙を取り出し、筆箱を探す。すると、
「持ってる」
あの子の手には既にペンが握られていた。
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