10人が本棚に入れています
本棚に追加
兄はなんのことだか分からず小首を傾げ、視線を逸らしたけれど、わたしたちのほうへ意識を向けているのが分かった。
年の離れた”大人な兄”の、その態度がなんだか可笑しかった。
こうなったらもう、なんだって楽しく思える。
わたしは色紙を手渡した。
なのに……。
「やっぱ、また今度にする」
「なんで!?」
また今度なんかないから、わたしはこんなにも悲しかったのに……。あの子の真意が分からない。
「だってお前、嘘つきだもん」
「わたしは嘘つきじゃない!」
兄がぎょっとして、顔を向けたのが分かった。
わたしは次の言葉を待った。
さっきの”アレ”は、なんだっただろう。
あの子は、ふぅと一息入れた。
「じゃまた会った時に、約束、守れよ……」
「約束?」
「うん約束。俺は憶えてるから」
そう言うと、じゃっ! 走り去って行った。
その姿をわたしは目に焼きつけた。
約束。
きっとあのことを言っているんだ。
***
最初のコメントを投稿しよう!