嘘つきは嫌いだ

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 黒い大理石の床に、練色の壁。  壁は照明に照らされて淡黄色に光っていた。  わたしたちは、その厳かなホールで、彼が出てくるのを静かに待っていた。  まるで何基ものエレベーターが備え付けられているような、銀色の壁から、同じく銀色の台車が引っ張られ──彼が現れた。  わたしと兄は少し離れて、追いかける。  誰も何も喋らない。  一人を覗いては──。  暫くすると、見知らぬ中年の男女が兄を促した。  わたしは兄と二人で、あの子の橋渡しをする。  あの子のお姉さんと目が合い会釈する。  それを見た親戚と思しい女性が、わたしが元クラスメイトだったことを今知ったようで、小声で一部を持って帰るかどうか訊いた。  わたしは小声で、「結構です」と答える。  そんな”物”が気休めでしかないことくらい、分かっている。  白い空白。  小さな四角い空白。  あの子は、こんな小さな欄外の余白に、収まってしまった。
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