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四つ目の曲がり角を数えたところで、また兄が口を開いた。
「ここら辺も変わっただろ? 俺はずっとここにいるから実感ないけど、離れてったやつらはみんな『結構ここいらも変わったな』って言うからなぁ」
この新しい通りは、もしあの時引っ越さなければ、毎日通っていたはずの道だった。だけどわたしがここを登下校することは一度もなかった。
当時、わたしと年の離れた兄は、既に実家を出て自立し、この地元でアパートを借り住んでいた。
地元で就職し仕事も順調だったので、兄だけはそのままここに残った。
でも、わたしは……。
わたしも、そうしたかった。
羨ましかった。
そのことで少しだけ、兄に対して疎ましさを感じていたかもしれない。
「そうだ。引越しの日。あの時もお前乗せて、実家まで送ったよな」
そう……。
あの日もパラパラと雨が降っていた。
「もう忘れた」
「そうか、忘れたか……」
地元のはずなのに、全く見慣れない国道沿いの建物を眺めていると、心底溜息が漏れそうになる。
まるで、変わりゆく町並みが、あの子との思い出まで沈めようとしているみたいだ。
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