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「俺は仕事してたし、家も出てたからな。お前は友達と別れるの寂しかったんじゃなかったのか?」
兄のその声で、わたしは現実を生きる車中へと、一気に引き戻された。
昔を懐かしむような兄の言葉に、わたしは素っ気無く返した。
「別に」
静かな車内。
「別に……か」
ウインカーの音がまたわたしの耳に戻ってきた。
「そうだ! お前あの時」
突然記憶の紐を引っ張り当てたかのように、兄が声を上げた。
「確かあの時、彼氏が挨拶に来たんだよな! なっ?」
確認するような視線を、わたしに向けていた。
「違う! 別に彼氏とか……」
「そんなんじゃ、無かったのか?」
「うん、ま……」
そう彼氏なんかじゃなかった。
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