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あの日のわたしは散々だった。
踏み切りを渡り右に曲がった所で、とうとう抑えていたものが止らなくなり、堪らずしゃがみ込んで泣いてしまったのだ。
それは誰も知らない、わたしだけの秘密。
こんな弱い姿なんて誰も知らない。
もちろん、あの子も──。
”知り合いに見られたくない”
数分もしない内にもう、わたしは立ち上がり、辺りの様子を伺い歩きだしていた。
こんな時でさえ人の目を気にする、わたしは、可愛くない性格なのだ。
小さな道路を挟んで、向かい合わせに立ち並ぶ家。住宅地へさしかかろうとした、その時──。
そこにあの子が立っていた。
わたしは驚いて、思わず避けるように遠回りしていた。
ふいに思い出した。さっきまでのこと。目元を拭おうとして──でも止めた。まるで自分でばらしているように感じたからだ。
顔を隠すように下を向き、わたしは立ち尽くした。
ずっと地面を見ていた。
時間が止まったようだった。
どれくらい経ったのか、ほんの数秒、それとも数十秒?
恐る恐る顔を上げた。
ゆっくりと顔を上げたら、あの子がじっとわたしを見ていた。
わたしも視線を返した。会話はない。だけど不思議ともう動揺はしなくなっていた。理由は分からない。
ただ嬉しかった。
なのに──。
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