11人が本棚に入れています
本棚に追加
がらんとした店内を抜けて外に出ると、アヤカシ達が荷車の周りに集まっていた。
荷台から零れんばかりに覗いている白い花達に、私は目を丸くする。
「すごい!これが髪飾りですか?」
完成した髪飾りはとても長いものだった。
時に小さな花畑を作り、時には1、2輪で連なり……白いスイセンの花が長く長く咲き誇っている。
「千花姫は髪が長いからな。これで頭から毛先まで飾るらしいぞ」
荷車の横で、欠伸をかみ殺していた左門さんが教えてくれる。
「我等は姫様の元へ戻る。お前達のお陰で婚礼に間に合いそうだ」
左門さんの隣にいたアヤカシの声に、この人が最初に来たアヤカシのお客さんだと気付く。みんな同じような姿をしているから、どこにいるのか分からなくなってしまっていたんだ。
誰に渡せばいいかと悩んでいたから丁度良かった。私はお客さんへ、自分が作ったものを差し出す。
「お役に立てたなら何よりです。それで……これも、千花姫に渡して欲しいのですが」
「これは?」
お客さんが私の手元を覗く。
そこにあるのは、大小の薄桃色のバラと白バラを組み合わせて、レースのリボンで飾り付けたブローチ。
婚礼用の豪華な髪飾りには見劣りするけれど、同じくらいの気持ちを込めているつもり。
「お祝いの品です」
「……何故ここまで?」
「何故……と聞かれても、そこまで難しい理由はないんです。ただ、結婚ってめでたいものだから」
まだまだアヤカシの世界は知らないことばかりだけれど、でも、結婚が大事なものというのは人間もアヤカシも変わらないんじゃないかな。
女の子にとって、とても大事な日。だからこそ笑顔で、幸せな気持ちでいてほしい。
「同じ女の子として、応援したい気持ちなんです。笑顔が、幸せがずっと続きますようにって」
「……そうか」
アヤカシのお客さんは髪飾りを両手で受け取ると、大切そうに抱えて頷いてくれた。
「姫様を想ってくれたこと、感謝の言葉もない。必ずや渡そう」
最初のコメントを投稿しよう!