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あちこち走り回って目的のものを手に入れて、終電に慌てて飛び乗って……そんな私がようやく幻橋案に戻ったのは、夜も更けた頃だった。
「ただいま戻りました!」
今日は休業日だけれど、帰ってこない私のためにお店を開けておいてくれたみたい。
引き戸を開けて店内に入ると、カウンターに座っていたアヤカシのお客さんと左門さんがこちらへ顔を向けた。二階から右門さんも降りてくる。
「お帰り小春――って、すごい荷物だね」
「遅いぞチビ春――なんだその大荷物は」
同時に目を丸くする右門さんと左門さん。その視線は、私が両手に持った大きな紙袋に注がれている。
左門さんは何故か私を「小春」じゃなくて「チビ春」と呼ぶ。いつもは「小春です」って訂正するところだけれど、今回はそんなことを言ってる暇はない。
「七日花の代わりを探してきました!」
いくつかのテーブル席から椅子をどけるとテーブル同士をくっつけて、その上に紙袋の中身を広げていく。
飴色のテーブルに転がり出るのは、照明に淡く輝く白いスイセンの花たち。
右門さんがその中のひとつに手を伸ばした。
「これは……?」
「プリザーブドフラワーです!」
「ぷり、ざぶ?」
聞きなれない言葉だったのか、不思議そうに左門さんが首を傾げる。私はもう一度ゆっくりと「プリーザーブドフラワー、です」と繰り返した。
「生花を長持ちするように加工したものです。パッと見は生花と変わらないし、一年くらいはもつんですよ……お客さん、いかがでしょうか?これは代わりにはなりませんか?」
心臓が喉から飛び出していきそうなくらい、ばくばくいっている。これがもしダメだったら他に方法はない。
私が固唾を飲んで見守る中、アヤカシのお客さんが花のひとつに手を伸ばした。枝のような細い指でそっと花をつまみ、お店の灯りにかざして矯めつ眇めつ眺める。
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