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夜のとばりの降りる頃
「しかし、考えてもみなさい。新時代の到来は直ぐそこまで来ているのですよ?アナタが何もせずにいて、誰が未来を変えると言うのです?」
その言霊で僕は目を覚ました。原稿の締め切りに追われていた僕は、気が付くと机に頬杖を付きながら、うとうとと居眠りをしていた。年の暮れも間近のと或る日の夜の出来事である。
今時の小説家と言うモノは、原稿用紙に頼らない場合もある。理由があるのかどうか知らないが、それが時代の変遷と言うモノなのだろう。
しかし、ハイテクが進む中、それでも僕は性懲りも無く、原稿用紙にモンブランで魂を刻む。それが僕のポリシーである。
その時、事件は起こった。突然、原稿用紙の中から背中に羽根の生えた妖精が飛び出して来たのである。
「お願いです。どうかワタクシ達の世界を助けて下さい。今、ワタクシ達の世界では、悪魔族が世界を滅ぼそうと企んでいるのです。それにはアナタ方の世界の人間にも責任があります。アナタが何処の何方かは存じませんが、これから、ワタクシと一緒に、ワタクシ達の世界へ来て頂けないでしょうか?」
妖精の名はベルと言った。ベルは、僕にそう告げると原稿用紙の中へと消えて行った。それは、僕の妄想が生んだ幻覚だったのだろうか?原稿用紙の中に手を触れようとしても、中には入る事も出来ない。
………どうやら僕は疲れている様だ。
僕は、一先ず筆を置き、部屋の窓を開けて、夜空を見上げた。
あそこに見えるのはオリオン座………。
かつて神話の時代、神の怒りを受けて、蠍の毒で死に至らしめられた狩人。
今思えば、その日の夜の出来事は、最後の審判の警笛なのかも知れない。原稿用紙を作る紙も原稿用紙を買う紙幣も又、木を切り倒さなければ作れない。
木を切り倒し過ぎなければ、山林地帯の土砂崩れも多少は防げるのかも知れない。
何時しか人類は知能を持たされ、それが災いして愚かな歴史を繰り返して行く。自然環境の破壊、生態系のバランスの歪み。
何も、人間の為だけに地球は存在している訳では無いと言うのに、何故に、人類世界と言うモノは自分本意に自然を滅ぼそうとするのかしら?むしろ、悪魔とは人間の事である。このままでは、人類世界は、神の怒りを受けて滅ぼされるのかも知れない。
僕は時折、閃く事がある。今こそハイテク産業を生かし、貨幣制度を改めるべきだと。キャッシュマネーからカードマネーへ。
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