井戸の中

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◆◆◆  ──翌日。告別式の受付が開始される中、やっと手の空いた俺はタバコでも吸おうと玄関前へとやって来た。タバコを口に咥えて火を着けながら、何気なく受付を流し見たその時。その懐かしい人物の姿に目が止まり、俺の右手はピタリと止まった。  十年経っても記憶の中にいる姿と変わらないその可憐さに、俺は思わず見惚れてしまったのだ。  この田舎で俺に優しく接してくれた人といえば、祖父母と母親以外では彼女だけだった。河原美香。そう──彼女は俺の初恋の人。  俺の視線に気付いた彼女は、その場で軽く会釈をすると俺の元へと歩み寄った。 「この度は誠にご愁傷様さまです。……久しぶりだね、公平くん」 「……うん。久しぶり、河原さん」  親父の事などどうでも良かった俺は、それだけ答えるニッコリと微笑んだ。 「──きゃあーーっ!!!」  ────!!?  突然聞こえてきた大きな悲鳴に、何事かと騒ぎの方へと視線を向けてみる。すると、人など殆どいない受付の横で、なにやら一人の女性が騒いでいる。 「……ごめん。ちょっと行ってくる」 「あっ、うん。また後でね」 (何なんだよ、一体……)  俺は面倒に思いながらも、河原さんを一人その場に残すと受け付けへと向かった。未だに一人で騒いでいる女性に近付くと、「猫が! ……っ、猫が!」と地面を指差している。  俺はその指先を辿るようにして少し先の地面へと視線を向けてみた。  ────!!! (っ、……何だよ、これ……っ)  頭から血を流して横たわる黒猫を見て、その気持ち悪さに思わずたじろぐ。その顔は原型をとどめぬ程にグチャグチャで、見ているだけで吐き気がする。 (なんて最悪なんだ……っ。どうすんだよ、この死体。俺が片付けなきゃいけないのか……?)  上から落ちて来たと言う女性の言葉に、俺は目の前の大木を眺めると大きく溜息を吐いた。
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