第28話:匣庭。

1/1
前へ
/143ページ
次へ

第28話:匣庭。

 僕たちは…巡り逢ってきた。  何度も、  何度も。  あの場所で。  あの、蓋をしたように、閉ざされた場所。  『匣庭(はこにわ)』…と呼ばれる、あの場所で。  そこは、此岸と彼岸の…狭間。  魂たちが旅立つ前に、その羽を休める場所。  魂たちは、悼む涙に癒され、最愛の想い出に触れ…  彼岸へと旅立つ。  …でも。  そういった涙に濡れる事もなく、  想い出の花に触れる事もなく、  いつまでも…彷徨い続ける魂たちが居る。  それも…  …無数に。  そんな彼らが旅立つには、  送る花が…必要だった。  だから…僕は、生まれ出る。  幾千幾万の人々が、亡くなった人々のために祈り…その力で『匣庭』の蓋が開く、そのときを目掛けて。  花を、手向けるために。  月色の、慈愛の…花。  ただ…僕一人では、その花を咲かせる事はできなかった。  様々な困難を乗り越え、共に縁を結ぶ人が必要だった。  全てを捧げてもよい…という程に、  相手を想うことにより、初めて顕現する花だから。  僕と共に在ったのは、ただ1人の、愛しい連れ合い。  幾度も、幾度も…生まれては、巡り逢うことを、繰り返してきた。  今回も…然り。全ては、大きな必然の流れの中。  僕も、彼女も…世界の中では、大事な役割を担う一つの欠片。  そう…大きなジグソーパズルの、ピースのような物。  僕たちが特別ではなく、1人1人が唯一無二の大切な存在。  誰しもが…老若男女、分け隔てなく…、皆が特別な存在なのだ。  本人の『望む』『望まない』に、関わらず、  その生は特別で、愛おしい…存在なのだ。そして、  僕は…僕たちは、自分の役割を、果たしただけの事。  あの御方…  …大地を胎内に蔵する、あの方に導かれて。
/143ページ

最初のコメントを投稿しよう!

85人が本棚に入れています
本棚に追加