85人が本棚に入れています
本棚に追加
ここで不意に、宙の気配が静かに動くのを感じた。2人が見上げると…無数の蝶たちが、静かに、一斉に舞い降りてきたのだ。蝶たちが、次々と、月色の紫陽花に宿る。紫陽花も、次々と咲き乱れる。次々と淡い光を放ち、紫陽花と蝶が溶けていく。そして…月色の光たちが、宙へとゆっくり還ってゆく。2人の心に、たくさんの声たちが伝わってきた。
(ありがとう)
(ありがとう)
(これで…還れる)
(生まれてきて…よかった)
(嗚呼…。)
果てしなく続く、魂たちの歓喜。それを聴く2人は、いつしか涙を流していた。自分達の役割が…ようやく分かった。
どんな困難にも負けず、お互いを想ってベストを尽くす…その事によって、この慈愛の花…月色の花を咲かせること。まるで、幼虫が数々の困難を経て、蛹になり、やがて美しい蝶へと成長する…その結晶が、この月色の花たち。そして幸せの波動は、周囲へも幸せの波を伝える。この空間で、救われずに迷っていた魂の蝶たちは、月色の慈愛に触れる事で…ついに彼岸へと、羽ばたく事ができたのだ。
人は本来、誰しもが唯一の素晴らしい存在。それが様々な要因により、そうでないと思い違いをしてしまう。それは何より悲しい事…だからこそ、自分自身と誠実に向き合い、愛し、幸せにしていく必要がある。幸せになるのは権利ではなく、その人自身が負う『責任』なのだ。そして、かけがえのない誰かを心から愛し、共に人生を歩み…最後の別れさえ、愛しい物として受け入れる。そこに生ずる、何より尊いエネルギー…。
愛する、という事。
最初のコメントを投稿しよう!