第1話:雨の静けさとともに。

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 身体は、ぴくりとも動かない。金縛りに逢ったかのように…視線だけが、彼女から外すことができずにいた。傘を持つ手が、まるで痺れたかのようだ。時が止まるというのは、こういう事なのだろうか。  …どれくらいの時間が経ったのだろう。  ふと、彼女がこちらへ顔を向けた。  整った顔立ち、茶色がかって透明感を帯びた瞳。  涙の…跡。  蒼太は、全身が揺らぐような衝撃を感じた。  反射的に、 (このままだと、風邪をひく)  と、自分の傘を差し出そうとした。  視線は、彼女を見つめていた…筈だが、  彼女の姿は風景に溶け込むように透き通っていき、そして…消えた。折しも、雨はほんの少しだけ小降りになった。蒼太は呆然と、立ち竦むしかなかった。 ◇ 「…だから、何言ってんだおめぇは」  焼き鳥を飲み込んでから、剛史は半ば呆れ気味に言った。  桜庭剛史(つよし)と蒼太の付き合いは、もう4年になる。入学してすぐ、一般教養の講座で隣同士の席になり、不思議と意気投合した。蒼太が内向的で人見知りなのに対し、剛史は兄貴肌で皆に慕われている。全く違う人種の2人が、なぜこんなにも普段から一緒に居るのか、周囲は不思議がった。 (ホント、分かんねぇ…)  ジョッキに並々と注がれたビールを、一気に飲み干す。女性が、傘も差さずに紫陽花を見てた? あまつさえ、それが目の前で消えた? (ワケ分からん。こいつ、下戸のくせに酔っぱらってんのか?)     
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