第1話:雨の静けさとともに。

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 蒼太のグラスに入っているのは、ジンジャーエール。この店の焼き鳥にノンアルなんて、人生の6割損してる。  2人が居るのは、地元発祥の人気焼き鳥店。普段は専ら、剛史の方から声を掛け、蒼太がそれに付き合う…という形で宴が催される。それが今回は、珍しく蒼太の方から声が掛かった。一体何事かと、興味津々で来てみたが、 (…馬鹿げてる)  有り得ん。ワケ分からん。  今日何度目かの(ワケ分からん)が出た。しかし、何より頭を抱えているのが、 「あんなに雨に濡れて、あの子、大丈夫だったかな…」 (…そこじゃねぇだろ)  今日、何度目かのツッコミ。  なんで、女性が『消えた』方に意識が向かない?  ワケ分からん。  ワケ分からんけど…こいつらしいな、とも思う。正体不明の女性、もしかすると蒼太が見たのは幻かもしれない。そんな女性の事を、本気で心配している。  実は、蒼太は密かに人気がある。とても優しいのだ。不器用だけど誠実で、誰に対してもとても温かい。大学では、そんな蒼太を心憎く思う女性もちらほら存在するのだが、本人は全く気付いていない。そもそも、優しいという自覚がなく、さらには同世代の女性から好かれるなどと微塵も思っていないのだ。 (もったいねぇ…)     
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