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剛史は、蒼太のことを『自覚のない』優しい男だと考えていた。しかし、実は剛史もまた、それに負けず劣らずの『自覚のない』優しさを備えていた。
…つまり二人は、似た者同士だった。
◇
店を出たのが、夜9時過ぎ。いつの間にやら、とっぷり夜は更けていた。すっかりほろ酔い気分の剛史。そして、当然ながらシラフの蒼太。
(あんだけ飲んで『ほろ酔い』程度…恐ろしい子)
コイツの肝臓はどうなっているんだろう。割と本気で不思議に思った。とは言え、いくら剛史がほろ酔いのガチムチ兄貴であっても、足取りがふらついている者を一人で帰らせる訳にはいかない。
(仕方ない、送っていくか)
そう思ったとき、突然頭に『ぴちょっ』という冷たい感触。
(…雨だ)
空を見上げると雨粒が降り注ぎ、眼鏡のレンズをパタパタと打った。本降りになりそうな感じがする。気分良さげな剛史の肩を強めに叩き、走るよう促した。…が、30分ほど後、
「やっぱ、間に合わんかったか…」
雨宿りをしながら、蒼太は溜め息をついた。
辛うじて剛史を下宿へ放り込むことはできたが、自分は間に合わず、近場にあった書店の軒下へ転がり込んだ。蒼太は本が好きで、時間があると本屋へ足を運ぶことが多い。今回、雨宿りに選んだ場所が書店というのは、いかにも自分らしいな…と、思わず苦笑した。
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