4

2/9
前へ
/9ページ
次へ
 目当ての店に到着し、プリンターのインクを探してうろついていた猫のポケットから軽快な音楽が流れ出した。洒落のつもりなのか純粋に好きなのか、ご丁寧に動物の猫のマスコットがついたストラップを引っ張り、猫は取り出した携帯電話を眺める。折り畳み式の、旧式の型。 「えぇ~、と」  やや悩んで通話ボタンを押し、本体を耳に当てた。聞こえた相棒の声に苦笑を漏らす。 『十四秒。だいぶ早く出られるようになったじゃないか』 「機械は苦手だよ。で、何? インクなら今探してるとこだけど」 『うん、買い物はよろしく。電話をかけたのは、これから帰るときにもし例の縄張り荒らしに喧嘩を吹っかけられても、相手を殺さないようにって伝えたかったからなんだ』 「はあ?」  猫の訝しげな声。犬は続ける。 『やっぱりさ、変だと思うんだよね。それで考えてみた。僕らはどうやら狙われてる。でも、命を狙われてるにしては、刺客の皆さんがあまりにお粗末だ。返り討ちにされるために僕らにけしかけられてるように思える』  猫の片眉が上がる。声こそ発していないがその雰囲気は伝わったのか、電話の向こうで犬が苦笑した。 『僕にもまだ、相手がそんなことをする意味も理由も分からないよ。僕の思い過ごしかもしれないしね。……だけど』  一拍置いて、わずかに鋭さを帯びた声色が届く。 『こういう殺しは、流れ作業をしてるようで不愉快なんだ』 「それは確かに」  猫が間髪容れずに答えた。犬が、苦笑ではない笑みをこぼす。互いの意識を確認し合ったところで、犬は声のトーンを落とした。 『とにかく、相手の目的が知りたい。葬儀屋さんにも協力してもらって、探ることにした。だから、襲われても殺すのは止めだ。十人がいっぺんに来ても大丈夫なら、五十人がいっぺんに来ても逃げられるだろ?』 「言うねぇ~」  猫が楽しげに笑い、うなずく。ストラップの猫も一緒に跳ねた。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加