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もともと犬は蜻蛉の件で依頼人と連絡をとったはずだ。蜻蛉にも懸賞金は懸かっているが、今回は警察である依頼人からの報酬がそれに当たる。ここで出るのは不自然な懸賞金の話題に、猫が疑問を持つのは当然である。
「ただの賞金首のリストじゃない。ここ一ヶ月で、懸賞金が支払われた犯罪者のリストさ」
「はい?」
謎かけのような相棒の言葉に、猫が渋い顔を作った。犬はさらに噛み砕いて言ってやる。
「ここ一ヶ月で、変わったことがあっただろう?」
ちらり、と猫が戸惑いを見せた。
「……縄張り荒らしのことか?」
「当たり」
「え、じゃこのリストに載ってるのって」
猫の戸惑いが困惑に変わる。
「ってことは、つまり、あの縄張り荒らしはみんな賞金首だったって?」
「そう。さらに言えば、僕らは知らないうちに賞金稼ぎに使われてたってことさ」
「んなっ」
猫が声を失った。
「んなバカな! 遺体は葬儀屋に頼んでいつも通りに処理してもらったぞ!」
普通、懸賞金を受け取るためには、賞金首の死体が必要になる。換金の際に依頼人なり換金業者なり、第三者に死亡が認められて初めて、賞金が支払われるのだ。
「まさか犬、葬儀屋が裏切ったって言うつもりか?」
語気を荒くする相棒を宥めるように、犬は緩やかに首を振った。
「まさか。葬儀屋さんは僕らのだいじなパートナーだ。それに、あのひとがそんなせこいことをするとは思えないしね」
「じゃあ、どういうことだよ」
「もうひとつ、あるだろ。遺体がさいごに向かうところがさ」
数秒、沈黙が流れる。呆然とした顔と声で、猫が呟いた。
「……火葬場か」
「当たり」
灯台もと暗しとはよく言うよと、犬が静かにうなずいた。
いつの間にか、太陽はだいぶ傾いてきていた。弱くなる日光の代わりに、影が音もなく事務所に満ちていく。
「つまり、葬儀屋が委託してる火葬組織が賞金首を雇って、私らにけしかけて、返り討ちに遭ったそいつらを葬儀屋を通して回収して、まんまと懸賞金を受け取ってた、って?」
「僕らが殺した遺体は必ず葬儀屋さんに任せるから、間違いなく回収できるからね。なんとも見事なサイクルだね」
「感心してる場合か」
むっとした猫が犬に突っかかる。犬は肩をすくめた。
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